Project Story
~双日食料が作り出す価値01~
新たな市場に足跡を刻め。
国境も、商流も、自ら越えていく。
01
未開の市場だったタイへ切り込んでいく
「ありがとう、これからよろしく!」。富田が差し出した右手を、先方のタイ人は力強く握り返してきた。双日食料にとって未開の地だったタイでの新規開拓に成功した瞬間だった。
話は2013年にさかのぼる。タイへの赴任に発つ富田に一つのミッションが課せられた。東南アジアでの新市場の開拓である。人口減と少子高齢化に直面している日本では、国内の食の市場の伸びは期待できない。シュリンクする一方だろう。そこで経済成長が著しく、鶏や豚から牛へのシフトも顕著な東南アジア諸国に新たな活路を見出そうと考えたのである。双日食料の将来を左右する重要なミッションと言っても過言ではなかった。
タイに赴任した富田は、まず日系企業、ローカル企業の見込み客リストを作成。そのリストを片手に1社1社、売り込みに走り回った。「“初めまして!”とドアをノックするところから始めました。双日食料を知らない人がほとんどでしたから、丁寧に説明を繰り返し、何度も足を運んで道筋を付けていったのです」。新規開拓にマジックはない。「とことんベタです」と富田自身が笑うほど、地道に足を運び続けたのである。初対面の相手でも物おじせず、相手の懐に飛び込めるのは、富田ならではのオープンで裏表のない性格ゆえだ。言葉や文化の違いを乗り越え、先方は富田の人柄に魅せられ、“人対人”の信頼関係が築かれていったのである。
その結果、タイでの初の取引先としてローカル企業の開拓に成功。何もなかった市場に双日食料として大きな一歩を踏み出すことに成功したのだ。
国内での新たな挑戦
一方、シュリンクする国内市場に対しても手をこまねいていたわけではない。5年半のタイでの赴任を終えて帰国した富田を待ち受けていた次のミッションは、国内での新たな市場の開拓だった。これまで双日食料は外食産業への販売比重が重かった。「皆さんが食べる牛丼の約3杯に1杯は当社の牛肉です」。しかしこちらも人口減によって市場の伸びが期待できない。そこで富田は量販チームをリーダーとして率いて、新たな販売先としてスーパーマーケットや生協への販売拡大に挑むことになったのである。
武器としたのはグループ会社のミートワンがコンシューマ向けに開発した『肉一番』シリーズ。北米産冷凍牛肉の輸入シェアNo.1ならではの圧倒的な価格競争力を持った商品である。品質についても開発陣の尽力により、後に『食品産業技術功労賞』を受賞するほど素晴らしいものに仕上がった。富田はこの価格競争力と品質を武器に、新たな販売先の開拓に挑んだのだ。
「新規参入の壁は高く、ライバル企業があまりに多かった。そんな中、当社にできることは、商品力を飛躍させると同時に地道な営業活動を重ねることしかありませんでした」。
富田は某食品問屋との協業によって量販店向けの物流ネットワークを構築。タイでの新規開拓と同様に、新規取引先に足を運んで地道に関係づくりを続けていったのである。コロナ禍によってステイホーム時間が増え、外食から内食へのシフトが一気に進んだことも功を奏した。開拓には弾みがつき、見事に量販店市場への参入を果たす。圧倒的な輸入量によって安定した供給量と価格を実現できることが高く評価された。双日食料がこれまで重ねてきた実績が、圧倒的強みとして発揮されたのだ。
「スーパーで『肉一番』が並んでいるのを見ると、改めて達成感が胸にわいてきます。“このお値段でこの味とは”と消費者の反応も上々です」。
自由に暴れられるカルチャー
東南アジア市場については、タイでの成功を皮切りに、インドネシア、ベトナム、フィリピンへと取引先を拡大。これらの国々の開拓に際しても富田が出張ベースで取り組んだ。
「タイで踏み出した一歩をきっかけに、ここまで市場を広げることができました。私ならではの足跡を刻めたんじゃないかなと自負しています。東南アジア各国は人口増が続き、しかも国民の平均年齢が若いことも魅力です。今後もこのエリア全体を一つの市場ととらえ、さらに取引を拡大していきたいと考えています」。
また量販店市場については端緒に就いたところで、急ピッチで取引先を増やしていくと同時に、『肉一番』のラインナップを拡充させていくことが課題となっている。
「ブランドの強化に取り組んでいきます。スーパーの売り場で消費者に“このロゴのついた商品なら間違いない”と思っていただけるようにすることが重要で、認知度を高め、いずれは他の追随を許さないブランドへと育てていきたいと考えています」。
まさに川上から川下へというビジネスの広がりを富田自身が推し進めているところなのだ。従来の商社ビジネスではイメージできなかったコンシューマ向けのブランディングに携われることに、食料商社である双日食料の一員ならではのやりがいを感じている。
「タイへ赴任する際は“自由に暴れてこい!”と背中を叩かれました。志があれば、自分が思うようにアグレッシブにやらせてくれるのが当社の魅力。存分にチャレンジできる環境です」。